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2006年06月29日

◆「夏越の祓」と「禊祓」の神道思想(六)

◆「夏越の祓」と「禊祓」の神道思想(六)


◆「夏越の祓」と「禊祓」の神道思想(六)

◆◇◆「夏越の祓」と「禊祓」の神道思想、『記・紀』神話にみる禊祓の起源(3)

 『古事記』神代巻によれば、スサノヲ命(スサノオ命・須佐之男命・素盞鳴尊)は高天原において乱暴狼藉を働き、数々の罪を犯したとしている(農耕を妨害する罪)。こうした罪と、『大祓詞』に列挙されている天つ罪(天津罪)とは符合する。

 また罪を犯すと、その償いとして多くの贖物(あがもの)を出さなければならないが、これを千位置戸(ちくらのおきど)という。これは全財産を没収されることを意味しる。

 しかし、スサノヲ命の犯した罪は、千位置戸をもっても埋め合わせることが出来ず、髭や手足の爪を切られ、遂に高天原を追放されることになる。

 これがわが国における「祓」の起源であるとされる。このように『古事記』神代巻で、スサノヲ命が大きな祓(大祓=おおはらえ)を科せられたとする描写は興味深い。

 さらに、『日本書紀』神代紀(一書第三)では、スサノヲ命が高天原を追放されていく様子を詳しく伝えている。それによると、「時に、霖(ながめ)ふる。素戔嗚尊(すさのおのみこと)、青草を結束(ゆ)ひて、笠蓑(かさみの)として、宿を衆神に乞ふ。衆神の曰(いは)く、汝は是躬(み)の行濁悪(けがらは)しくして、逐(やら)ひ謫(せ)めらるる者(かみ)なり。(中略)遂に同に距(ふせ)く。是を以て、風雨甚(はなは)だふきふると雖(いへど)も、留(とま)り休むことを得ずして、辛苦(たしな)みつつ降りき。(中略)笠蓑を著(き)て、他人の屋(や)の内に入ることを諱(い)む。又束草(つかくさ)を負ひて、他人の家の内に入ることを諱(い)む。此を犯すこと有る者をば、必ず解除(はらへ)を債(おほ)す。此、太古の遺法なり。」と記す。

 『日本書紀』神代紀におけるスサノヲ命の姿は、すなわち「青草を結束ひて、笠蓑とし」「辛苦みつつ降り」ていく姿は、あたかも辛酸を嘗め惨めな姿で流浪する悪神をイメージさせる。

 また「笠蓑を著て、他人の屋の内に入ることを諱む。又束草を負ひて、他人の家の内に入ることを諱む。此を犯すこと有る者をば、必ず解除を債す。此、太古の遺法なり」とあり、この箇所は「大祓」と深い関係にあることを示してる。

 『大祓詞』の最後にも、天下四方(あめのしたよも)の罪を背負って、根国・底国を流浪する速佐須良比咩(はやすさらひめ)という女神が登場しますが、この女神は、あたかもスサノオ命のイメージではないかと考えられるのだが…。

 しかし、『古事記』神代巻によれば、その後、出雲国に降ったスサノヲ命は、八岐大蛇(やまたのおろち)を退治し、草薙剣(くさなぎのつるぎ)を得ると、高天原の天照大御神にそれを奉献し、櫛名田比売(くしなだひめ)と結婚して八島士奴美神(やしまじぬみのかみ)を生み、まさらに神大市比売(かむおおいちひめ)を妻にして大年神と宇迦之御魂神(うかにみたまのかみ)を生むなど、多くの子孫をもうけたとある(国津神の系譜の始まりであり、スサノヲ命は国津神の祖神とされる)。

 高天原において悪神とされたスサノヲ命も、一転して出雲国では勇敢な英雄神・文化神という善神へと生まれ変わるのだ。つまりこうした「祓」を経たことにより、スサノヲ命は新しく生まれ変わることが出来たと語るのである。

 ここに「祓」の本義を読み取ることが出来る。このように、『記・紀』神話は神代の世界を通して、神道儀式の禊や祓の由来とその意味を説明しようとするのである。

 そして『記・紀』神話は、わが国における天津神(高天原の神々)の宗教的権威の絶対性(皇祖神・天照大御神)と、天皇家(天孫族)による統治の正当性・正統性とを、あらためて神話の世界を通して示すのである。


スサノヲ(スサノオ)


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Posted by スサノヲ(スサノオ)  at 15:00 │Comments(0)スサノヲ(スサノオ)の日本学

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