◆島根県八束郡・佐太神社の御座替神事(五)

スサノヲ(スサノオ)

2006年09月29日 13:35




◆島根県八束郡・佐太神社の御座替神事(五)

◆◇◆島根県八束郡・佐太神社、佐太大神と加賀の潜戸(3)

 祭祀の面からみると、佐太神社では古来より、竜蛇信仰(海蛇を神の使いとして信仰、竜蛇様)があった。竜蛇はセグロウミヘビとよばれる海蛇で背が黒色をしており、脇腹の色が金色をしている。体長は六十~七十センチの小さな海蛇だが、眼も歯も鋭く、威厳と神秘性が感じられる。

 南方産のセグロウミヘビが毎年決まった頃(晩秋、日本海に北西の風が強くなる頃、出雲の海は急に暗くなり海面は荒れて泡立つ。こうした天候の急変を「お忌み荒れ」という)に季節をたがえずやって来るので古代の出雲の人々は、竜蛇様(あるいは竜神の使い)として篤く信仰していたようだ。

 夜、この海蛇が海上を渡ってくるときは金色の火の玉に見えるという。そして、佐太神社の境内にある舟庫に掲げられた額には「神光照海」と書かれ、この「海を光らして依来る神」はセグロウミヘビであったと考えられる。

 こうした竜蛇信仰は、海の彼方から依り来る神という古代信仰(マレビト信仰、海の果ての常世国から豊饒をもたらす神、対馬海流がもたらす南方文化への憧れと信仰)とされている。すると、佐太大神も、そうした古代出雲の海人族が信仰していた、竜蛇信仰の依来る神(竜蛇様)なのかもしれない。

 また、海人族との深い関わりから、猿田彦命(猿田彦大神)とも同一視される(サタ・サダとは岬のことなのか? 猿田彦命には、縄文時代より航海の民・海人族の信仰していた、航海神・太陽神の要素が見て取れる)。

 もう一つ、気になるのは「金の弓箭」のことである。矢というと類似の説話として、『山城国風土記』逸文の「賀茂の丹塗矢」伝承(賀茂建角身命の御子・玉依日売と川上から流れてきた丹塗りの矢と感けて、賀茂別雷命が生まれたとする御子神伝承)などを思い出す。

 金の弓矢は雷火か太陽光を象徴しているようで、こうした説話は太陽神・雷神とそれを祀る巫女の交合の儀式(神婚説話・日光感精説話)を表しているようだ。

 どうも、賀茂説話や三輪山・大物主説話との関係(類似の説話の存在は、出雲一族の大和・山城への移住と関連があるのか?)が気になるところである(柳田国男の「玉依姫考」などによると、古代信仰に共通するモチーフのようだが)。

 『出雲国風土記』(嶋根郡)によると、生まれた佐太大神(または佐太御子神)は、佐太国(狭田国)の総鎮守神であり、それがカミムスビ命(神魂命)の御子(キサカヒメ命=枳佐加比売命)から生まれたとすることから、佐太大神を奉斎する氏族が神魂命を信仰する祭祀集団と何らかの関係があったことを示しているようだ。

 この神魂命については謎が多いようである。カミムスビ(神産巣日神・神皇産霊神)といえば、『記・紀』では天地初発のときに生まれた独神であり、タカミムスビとカミムスビは併称されている。しかし、『出雲国風土記』では神魂命と記されており、性格は『記・紀』と異なっている。

 すると、神魂命は島根半島の太古よりの、海辺の素朴な女神であったのが、本来の姿であったのであろうか? 魂を司るとする出雲土着の神の総称であったのであろうか? 神魂命の信仰については、神魂神社で一度考察してみようと思う。


スサノヲ(スサノオ)

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